(翌日。トクコとユカが倉庫に到着)

トクコ:「ユカさん、今日はよろしくお願いします」
ユカ:「こちらこそ。緊張しなくて大丈夫ですよ」

トクコ:「…ありがとうございます」
ゴロー:「…また来たのか」
トクコ:「うぇっ…」

トクコ: (ぎゃぁああ!出たぁ!!!
な、なんかもう顔だけで迫力あるわぁ💦)
ユカ:「ゴローさん、こんにちは。
ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
ゴロー:「…あんたは?」
ユカ:「ユカと申します。
トクコさんと一緒に、現場を見せていただければと思いまして」
(ゴロー、ため息をつく)
ゴロー:「…どうせ“また”指摘に来たんだろ」

トクコ:「違います!
あの、先日は誤解を招いたようですみませんでした。
ケンさんと、観察についてお話ししていただけで…
たまたまそこにゴローさんが通りかかったんです。」
ゴロー:「……」
ユカ:「トクコさんは、転職されてきたばかりなんです。
それで、先日はゴローさんや倉庫の方々のお話しを伺いたくお邪魔したのですが…
途中で終わってしまったので、今回改めてお時間をいただくことになりました」
ゴロー:「……好きにしろ」

(ゴロー、ぶっきらぼうに言いながらその場を離れる)
トクコ:「…やっぱりゴローさん、怒ってる感じですね…」
ユカ:「まぁ、慣れ親しんだやり方を指摘されたら、
誰でも反発したくなるものですよ」
トクコ:「でも…私、押し付けたつもりはなかったんです。
ケンに説明していただけなのに…」
ユカ:「そうですね。
トクコさんは“良くしよう”として言ったことですしね」

トクコ:「…そうなんです!」
ユカ:「でもね…
一見すると“非合理”とか、“非効率”に見えるものって…
案外、相手からすると“ちゃんとした理由”があることも多いんですよ」
トクコ:「…え…?」
ユカ:「ラクさんも、人が悪いわねぇ(笑)
私にこの役割を任せた理由が、少し分かったわ」

トクコ:「??」
ユカ:「トクコさんは“観察”が得意ですよね。
観察して気づいたことを伝えるのも大事だけど…
相手の言い分を“聞いて”理解することも、同じくらい大事かも」
トクコ:「…相手の、いい分…」
ユカ:「大事なのは、“相手に考えさせること”。
正しさを伝えるんじゃなくて、気づかせるように誘導するんです」
トクコ:「気づかせるように…誘導させる…」

ユカ:「ふふ…ちょっと、やってみましょうか」
(ゴローに近づくトクコとユカ)
ユカ:「ゴローさん、この棚の配置って、
どういう理由でこの位置にされてるんですか?」
ゴロー:「…理由?
まぁ、昔色々あったんだよ…」
ユカ:「なるほど。
でも、もしこの棚を少しずらしたら…
フォークリフトの動きがスムーズになりそうですが、どう思いますか?」
(ゴロー、じっと近辺を見つめる)

ゴロー:「…以前、この辺りで事故があったんだよ」
トクコ:「事故…?」
ゴロ-:「ああ。フォークリフトが急に飛び出してな…
作業員が大ケガをした。だからこの配置にしたんだ」
トクコ:「!!!」
ユカ:「…なるほど。
それで、安全性を優先してこの配置に?」
ゴロー:「ああ。
以前は死角があったみたいでな。
だが、この配置にしてから同じことは起きてない。
だから、これが“正しい”やり方だと思ってる」
トクコ:「…そうだったんですね。
そういう背景があるとは思いませんでした…
あの、ゴローさん…
もし…安全性を維持しつつ、
作業効率も上げる方法があったら…どうですか?」

(ゴロー、じっとトクコを見つめる)
(トクコ:
ひっ!!
ま…また怒られるか!??
…とりあえず、い、生きて帰りたい!!)

ゴロー:「…ふん、あるなら聞いてやるよ」
トクコ:「…えっ…!??
…あ、
ありがとうございます!!」

~~倉庫を出た後。トクコとユカが並んで歩いている~~
トクコ:「ユカさん、なんであんなに自然に誘導できるんですか?」
ユカ:「…今回は、たまたまですよ。
それに私、実は以前、現場改善の仕事をしていたんです」
トクコ:「えっ?」
ユカ:「私も、効率を上げるためにいろいろ提案したんですが…
結果的にすごく反発されてしまって。
今回より、もっとひどかったわ」

トクコ:「…そ、そうだったんですか…」
ユカ:「その時に、私もずっと悩んで。
色々気づいたんです。
まず相手の言い分を、聞いてみることって大事なのかなって…」
トクコ:「…なるほど。
そうだったんですか…
あの、今日は本当にありがとうございました。」
ユカ:「いいえ。
少しでもお役に立てたなら、良かったわ」
~~~翌日。トクコが出勤すると、ゴローが声をかける~~~
ゴロー:「おい、トクコ」
トクコ:「うぇっ?
あ、ゴローさん💦
お、おはようございます」
ゴロー:「…昨日のことだけど…
あの棚、少し動かしてみたぞ。
お前があの後メールで教えてくれた、ずらしても安全性を保てる方法でな」
トクコ:「え!?ほ、本当に?」

ゴロー:「まぁ…
ちょっと試してみたくなったんだよ」
トクコ:「…あ、ありがとうございます!」
(ゴロー、ぶっきらぼうに顔をそらしながら去っていく)

(トクコ:
…
…顔は怖いけど、
…ただ不器用な人ってだけなのかもね)

次回について
以下のリンクから!
参考文献について
なお、この「ラクとトクコの職場(ストーリー編)における「トクコの能力」は…
FBI、CIA、スコットランドヤード、アメリカ陸海軍、ナショナルガード、シークレットサービスなど、名だたる機関に対して行われた「エイミー・E・ハーマン」さんの「知覚の技法」を基に作っています。
つまり、実在する技法です。
(「イスパイアル」の名称は、私が勝手に物語を分かりやすくするためだけに作ったものですが…笑
そして、もちろん「5倍の速さで観測できる」というのも、本ストーリーオリジナルの設定です。)
まだまだ序の口なので、これからどんどん「実生活に活かせるような形」でご紹介できればと思います。
本書では、アートを教材として情報収集能力、思考力、判断力、伝達力、質問力などを鍛えるコツが記載されています。