(朝、トクコの部屋)
トクコ:「今日…
言ってみようかな」
はーちゃん:「ツトムさんに?」
トクコ:「うん。

なんか、
このままにしてても、
な、って思って」
はーちゃん:「…
何を届けたいの?」
トクコ:「え?」
はーちゃん:「仮説を届けたいの?
それとも、
ツトムさんに
何かを感じてほしいの?」

トクコ:「…
うーん。
分からん…」
はーちゃん:「分からないまま、
行くの?」
トクコ:「…うん。
分からんまま、行く」
はーちゃん:「…なんか、前と変わったね」

トクコ:「そう?」
はーちゃん:「うん。前だったら、
分からなかったら
動かなかったでしょ」
トクコ:「…ラクくんに、
引っかかったまま持っておく、
って言われたしな」
はーちゃん:「…いってらっしゃい」
(午前、オフィス)

(トクコ:よし。今日、言う)
(ツトム、資料を抱えて
足早に廊下を歩いている)
トクコ:「あっ… ツトムさん、
ちょっとよろしいですか」

ツトム:「あ、トクコさん。
すみません、
今からA社に電話しないといけなくて。
後でいいですか?」

トクコ:「あ、はい。
もちろんです」
ツトム:「では、後ほど…」

(ツトム、もう歩き出している)
(トクコ:…あ。 行ってしまった。
タイミング、違った)
(午後、トクコがタイミングを見計らってツトムに声をかける)
トクコ:「ちょっとお話しできますか?」
ツトム:「あ、はい、
先ほどは失礼しました。
何でしょう」
トクコ:「…あの、ツトムさんって、
休めてます?」
ツトム:「休む、ですか。
…なぜですか?」

トクコ:「なんか…
ずっと動いてるな、って思って」
ツトム:「動いてた方が、
調子いいんですよ。
自分、止まると
逆にしんどくて」
トクコ:「…止まると、しんどい」
ツトム:「ええ。
まぁ、性格なんですかね。
あはは」

(トクコ:…
笑う直前、
目が、一瞬だけ、
下に落ちた。

笑顔のときの目は、
細くなる。
でも今のは違う。
…
何かを、
見ないようにした目だ。
それに、口元。

口角が上がるより先に、
頬が、
一瞬だけ、
固まった。
自然に笑うとき、
頬は先に動く。
でも今は、
口が先だった。
作った順番がちがう)
トクコ:「…あの、
変なこと言うかも
しれないんですけど」
ツトム:「はい?」
トクコ:「ツトムさんって…
頼られることで、
自分がここにいていい理由を
作ってる…
のかな、って思って」

ツトム:「……」

ツトム:「…いやぁ、
そんなことないですよ?
単純に仕事が好きなんで!
じゃあ次行きますね!」
(ツトム、さっさと立ち去る)
(トクコ:…
あーーー…閉まった。
完全に、
閉まった)

(昼休み、屋上のベンチ)
トクコ:「…ラクくん、
失敗した」

ラク:「聞かせてください。
ちょっとテーブルのある席に
移りましょうか。」
(トクコ、やりとりを話す)
ラク:「…トクコさんは、
ツトムさんに
何を伝えたかったんですか?」
トクコ:「…仮説を、
伝えたかった。
こう見えてますよ、って」

ラク:「仮説を伝えることと、
ツトムさんに届くものとは、
同じですか?」
トクコ:「…え」
ラク:「情報を伝えることと、
人に届けることは、
違います。
情報は言葉で運べますが、
人に届くものは…
言葉だけじゃないことが多い」

トクコ:「じゃあ、
どうすればよかったの?」
ラク:「トクコさん、
以前ケンジさんに
言いませんでしたか?」
トクコ:「…え?」

ラク:「介入しすぎず、
まずはただそこにいることも
大事、って」
トクコ:「…あ」
ラク:「今日、
それができましたか?」
トクコ:「…できてなかった」

ラク:「…そうですか」
トクコ:「…じゃあ、
今日の夕方、もう一回やってみる」
ラク:「はい。そうですね。」
