(午後、オフィス)
(ツトムが、
電話を終えて戻ってくる。
表情が、いつもと少し違う)
ツトム:「…マナミさん、
B社への見積もり、
今日の三時が締め切りでしたよね」
マナミ:「はい。
…もう三時半ですが」

ツトム:「……」
マナミ:「ツトムさん、
送りましたか?」

ツトム:「…自分が、
やるつもりで…
A社の件に集中してて…」

マナミ:「…送れていない、
ということですか?」
ツトム:「…はい」
(トクコ:…あ)


トクコ:「ユカさん、
今から見積もりの内容、
出せますか?」
ユカ:「…すぐ取り掛かります」

トクコ:「ケンジくん、
B社の担当者に電話して、
お詫びと合わせて
今から送る旨を伝えてもらえますか?」
ケンジ:「はい、すぐやります!」

トクコ:「マナミさん!」
マナミ:「!」
ツトム:「!」

トクコ:「念のため営業部に行って、
この顧客へ最近訪問したかどうか、
チェックしてもらってください」
ユカ:「分かりました」

(ツトム:……!
自分が、やるはずだった。
でも、
回ってる。
自分がいなくても…)

トクコ:「ツトムさんは
A社の件、
引き続きお願いします。
B社は心配しなくていいから」

ツトム:「…はい
申し訳ありません。」
(トクコ:…
今、何かが、
ツトムさんの中で
動いた気がする)

(夕方。
B社の件が落ち着いた頃。)
ツトム:「あ、トクコさん…」
トクコ:「ツトムさん、
お疲れ様。
コーヒーどうぞ」
ツトム:「あ、ありがとうございます」

トクコ:「…
色々ありましたね。
まぁちょっと、
のんびり
コーヒー飲みましょう」

ツトム:「…そうですね」

ツトム:「……」
トクコ:「……」
ツトム:「…今日、
やらかしましたね」
トクコ:「…そんなことないですよ」
ツトム:「自分がやる、
って思ってたのに…
抜けてた」

トクコ:「…うん」
ツトム:「でも…
マナミさんとケンジくんが、
ちゃんとやってくれて」
トクコ:「うん」
ツトム:「…自分がいなくても、
回るんですね」

トクコ:「……」

ツトム:「…今朝、
トクコさんに言われたこと」
トクコ:「うん?」
ツトム:「頼られることで、
自分がここにいていい
理由を作ってる、って」

トクコ:「…うん」
ツトム:「あのとき、
そんなことない、って思って。
でも…」

ツトム:「…今日、
自分がいなくても
回るって分かって、
なんでしょうね…
少し、怖かったですね。
ほっとしたような気もしたけど。」
トクコ:「……」
ツトム:「頼られることで、
自分がここにいていい
理由を作ってる…
それ、合ってたんですかね…」

トクコ:「…あの、
すみません…」
ツトム:「…え?」
トクコ:「…実は私、
今朝の時点では
ツトムさんに本当は
何を伝えたいか
分からないままだったんです」
ツトム:「…」
トクコ:「でも今、ツトムさんが
色々話してくれて、
ようやく分かった気がします。

きっと私、
ツトムさんに、
『頑張らんでも、
ここにいていいよ』って…
そう思って
ほしかったんやなと…」
ツトム:「…え?」

(トクコ:…
あぁ、もう、
はーちゃん、
いじわるやなぁ…)

(トクコ:…昨日の
「誰かに似てない?」って…
…「過去の私」のことか。
この会社に来る前、
「人のことが見えすぎて辛かった」私。

辛くて辛くて、
辛かったけど、
もし、
困っている人が
いるのなら、
私のこの
呪われたチカラでも…
少しでも助けられることは
あるんじゃないかと。
…ずっともがいていた。

…でも、
それはもしかして、
『頼られることで、
自分がここにいていい
理由を作ってる』
そんな動機かもしれなくて…
『頑張らんでも、
ここにいていいよ』
それはきっと、
あの頃の自分が
かけて欲しかった言葉だ…)

