(夜、トクコの部屋)
トクコ:「ただいまぁ」
はーちゃん:「おかえり。
今日はどうやった?」

トクコ:「…なんか、
色々あった」
はーちゃん:「色々?」
トクコ:「ツトムさんがな、
B社への見積もり、
出し忘れてしもたんよ。
で、マナミさんとケンジ君に
カバーしてもらって」
はーちゃん:「ツトムさんが…
珍しいね」
トクコ:「うん。
で、夕方に
カフェテリアで
コーヒー飲んでたら、
ツトムさんがね」

はーちゃん:「うん」
トクコ:「『自分がいなくても、
回るんですね』って、
自分から言ったんよ」
はーちゃん:「…それ、
大きいね」
トクコ:「うん。
そのあと、
お昼に私が言ってたこと、
ツトムさんが自分で
持ち出してきてくれて」
はーちゃん:「持ち出してきた?」

トクコ:「うん。
『頼られることで、
ここにいていい理由を作ってる、
って言ってたけど、
自分、ほんとに
そう思ってたんですかね』
って」

はーちゃん:「…ツトムさんが、
自分で聞いたんやね」
トクコ:「うん。
そのとき、
私も言えたんよ」
はーちゃん:「何を?」
トクコ:「…私が届けたかったのって、
本当は、
頑張らんでも、
ここにいていいよって…
ツトムさんに
そう思ってほしかったんやな
…って」

はーちゃん:「…うん」
トクコ:「…それはきっと、
あの頃の、
転職前の私が、
見えすぎて辛かった私が、
かけてほしかった
言葉や、って…
私…それにも気づいた」
はーちゃん:「……」
トクコ:「…頑張らんでも、
ここにいていいよ、って。
たぶん、あのとき、
誰かに言ってほしかった」

はーちゃん:「…そっか」
トクコ:「…はーちゃんが
前に言ってたやん。
『誰かに似てない?』って」
はーちゃん:「…うん」
トクコ:「あのとき、
誰やろ、って思ってたけど。
…昔の、
私のこと?」
はーちゃん:「…うん」
トクコ:「ツトムさんのこと、
見ようとしてた
つもりやったのに。
私が何より
見えてへんかったのは、
私自身やったんか」

はーちゃん:「…
…でも、
今日、見えた」
トクコ:「…うん。」
はーちゃん:「…トクコ、
今でもその
観察の力、
無かった方がいいって
思う?」
トクコ:「…うーん…
さぁ…
どうかな…」

(夜、オフィスの休憩室)
バウ:「…ラク。
これ、まだあるぞ?」

ラク:「…おかしいですね
私も昨日、
ひとついただいたのですが
…
数が減っていない?」
バウ:「…食っていいか?」
ラク:「これ、新しい箱ですね。
昨日の箱には
左隅に少し黒ずんだ後があった。
今日の箱にはそれが無い
昨日無くて今日あるなら
まだ分かりますが…
誰が、何のために…」

バウ:「もう食っちゃえ」
ラク:「……」
バウ:「もぐもぐ…
…で、今日のトクコ、
どうだった?」
ラク:「…失敗して、
やめた。
それが一番よかったです」
バウ:「失敗しないと、
やめられなかったかもな」
ラク:「…そうですね。
失敗は、
必要だったかもしれません
…もぐもぐ」

バウ:「…うまいな、これ
で、ツトムは?」
ラク:「…扉が、
少し開いたのでは
ないのでしょうか。
まだ、
始まりですが」
バウ:「…トクコは?」
ラク:「…おそらくは、
自分自身のことに、
少し気づいたのでは
無いでしょうか。
観察とは、
そういうものですから」

バウ:「ほう。
何に気づいたんだ?」
ラク:「…それは、
トクコさんのものです。
僕が言うことじゃない」
バウ:「…ふっ。
お前は、ケイに…
扉を開けたことが、
あったのか?」
ラク:「……」
バウ:「…ケイの手帳か」

ラク:「トクコさんを見ていて
僕も少し分かってきた。
僕が見ていたのは、
きっと
ケイじゃなかった…」

ラク:「うわっ!」

バウ:「砂時計が!」



…
…
…
…
…
…「ねぇ

…アンタ…
…

…
また数えてたの?」
…

「今日の田村部長…
…
会議中、三回腕を組んでいた。
…

…一回目は石田さんの発言のとき
…二回目は数字を出したとき
…三回目は…

「分かった、分かった(笑)
…で、それが何を意味するの?」

「今期の予算、削られる。
ほぼ、確実にな」
「ええっ!
困るんだけど!
根拠は!?
腕組みだけ??」
「腕組みだけじゃない
資料をめくるペースが遅かった。
…
あと、
石田さんが話してるとき、
足はずっと
扉の方を向いて
座っていた」

「…足??」
「ああ。」
「それ、関係あるの?」
「足は非常に重要な
情報源だ。
人は表情はごまかせても、
足はごまかせない。
足が、部屋から
出たがってた」

「ふーん…
ホント観察オタクよね、
タクトは」
「オタクは褒め過ぎだ
… ケイ」
「褒めてないんだけど💦」

