(木曜日の朝。
オフィス)
(マナミ:
…やはり分からない。
C区画の事故件数が
データより少ない理由。
危険度の数値は高いはずなのに。
B区画との違いは何なのか。

このデータだけでは、
見えない何かがある…
今日、
現場で確認するしかない)

(その日の午後。
倉庫)
トクコ:「こんにちは、
ヨシダさん。」

ヨシダ:「あぁ、トクコさん、
今日は
よろしくお願いします。」
マナミ:「よろしくお願いします。」
トクコ:「初めて来ましたが、
随分広いですね…」

ヨシダ:「そうなんです。
これが弊社が今持っている
最大の倉庫になります。」
マナミ:「確認したところ、
事故が多いのはB区画です。
C区画もデータ上は
危険度が高いはずなんですが、
実際の事故件数は
ずっと少なくて…
何度データを確認しても、
理由が分からないんです」

トクコ:「なるほど…」

ヨシダ:「あぁ、
こちらがB区画で
あちらがC区画ですね。
それぞれご案内しますね。」
(トクコ:……)

マナミ:「お願いします」

トクコ:「すみません、
少し全体を
見てもいいですか?」
ヨシダ:「え?
全体?
あ、はい、
どうぞ」
トクコ:「……」
(トクコ:うーん…
逆にもう
既に色々見えすぎるな…

トクコ:(…
落ち着け)

マナミ:「…
…トクコさん?」

トクコ:「うん。
よし。
行きましょうか。」


マナミ:「…
…ヨシダさん
すみません。
ちょっと私のノート、
持っててください」
ヨシダ:「え?
…ええ」
マナミ:「ま…待って
‥‥ください!」
トクコ:「え?」

マナミ:「さ…さっき
全体を見るって
仰いましたよね??
それが、逆に目を閉じて
『うん、よし』って!
ちっとも良くない!
大体あなたは
そもそも今回のために
準備なさったんですか??」

マナミ:「ヨシダさん!
ノート落ちました!」

ヨシダ:「ひいぃ!
すみません!
び、びっくりして…」

(トクコ:私のついでに
怒られてはる…
もしかして
間が悪い人?💦)

マナミ:「あ、
す、すみません!
つい、興奮して…」

トクコ:「あぁ、いやいや…
私が悪かった。
ちゃんと
説明すべきでしたね」

トクコ:「そうやね…
まずじゃあ、照明から。
照明はB区画の奥が暗い。
おそらくC区画との
差が大きい。
B区画の天井は
蛍光灯が八本。
そのうち二本、
光量が落ちている。
奥の照度は、
手前の六割ほど。
C区画との差は歴然かな?

トクコ:「あと、通路…
左から三番目が、
他より狭い。
目測で七十センチほど。
標準は九十センチ前後
ということは、
二十センチ近く足りない。
すれ違いに難がある幅。

トクコ:「それから床。
中央に引きずり跡。
幅二十センチ、
長さ三メートルほど。
色の濃淡から、
月単位で繰り返されている跡。
手前の棚下から
3列目向こうの角まで。
ルートが一定している。」

トクコ:「人の動線は、
二か所が交差している。
どちらも棚の角で
死角になっている。
交差角度はほぼ直角。
互いに見えないまま
ぶつかる構造に
なっている。」


トクコ:「あとは…
滑り止めかな?
確認できる範囲で
十四か所に貼ってある。
でも、
あの棚と棚の間だけ、ない。
剥がれた跡が
微かに残っている。
つまり、
貼られていたのに、
なくなっている。」

トクコ:「空気は左奥、
湿度が高い。
他のエリアより体感で
五パーセント前後か。
おそらく水を使う設備が、
十メートル以内にある…
…って、
話、聞いてた?」

マナミ:「…トクコさん、
本当にすみませんでした」
トクコ:「え?
やっぱり
聞いてなかったの?」
マナミ:「そうではありません。
まだこの倉庫に入って
わずか5分程度。
それなのに、そこまでもう
お気づきに
なられていたなんて…
お、お見それしました。」

トクコ:「いやいや。
まだまだ逆にこの程度で…
もっと長く見てれば、
きっともっと
色々見えるんです。」

マナミ:「え…?」
トクコ:「でも、
気をつけないと
いけないことも
あって」
マナミ:「…何ですか?」
トクコ:「細かいところに
こだわりすぎると、
…
今度は
全体が見えなくなる。」

マナミ:「……!!」
トクコ:「全部追いかけようとすると、
全部を処理できなくなる。
だから私がやってるのは、
まず全体を見て、
引っかかったものだけを
拾う、
っていう感じかな…」
マナミ:「…だからいったん
目を閉じて、
敢えて細部を
追わないようにしたんですか?」

トクコ:「うん。
まだ、今の時点では、
あるべきものがない、とか、
他と違う、とか。
そういうものを
見たくてね」


トクコ:「じゃ、
今度こそ、
行きましょうか」

(マナミ:この人は…
私がずっと
データと格闘して
辿り着けなかったものを、
目の前で見ただけで
拾っていた。
…なぜ分かるんだろう。
データがなくても、
なぜ分かるんだろう。
トクコさんは、すごい。
私に出来ないことが、
出来る!)

