(次の日)

(トクコ:…リーダーの件、
今日、人事に返事できるかな…
…結局昨日の間には決められなかったな…
どーしよ…)

男性の声:「ええぇ!??
うーん…困ったな…?」
(オフィスの廊下で声が響き渡る)
(トクコ:…ん?誰かの声?)

女性:「…すみません…。」

男性:「今回は…
技術の田中さんに任せるか…
いや、しかし…」
トクコ:「……」
(トクコ:…誰か謝ってる…
困ってる…
前の会社と同じような光景…
……

(トクコ:な…
何を止まってるんや、私は。
関わらない方がいい。
前の会社で学んだはず)

(女性の小さなため息が聞こえる)
女性:「…本当に、すみません…」
(トクコ:…また、謝ってる…)

(トクコ:…くっ…)







(トクコ:……左手の指に、絆創膏。
でも、その絆創膏の上から、さらに小さな切り傷。

瞬きの回数が異常に多い。

左靴の内側にかすかだけど、最近できた不自然な汚れ。

右手の人差し指の爪が痛んだ様子。

資料に手書きの文字…最後の方は、インクの乾き具合がまだ新しい。

資料の角が、何度か折り曲げられている…

ファンデーションが厚い。顔色が悪いのを隠そうとしている?
それに左の耳の後ろだけ、髪が不自然な位置で止まっている。

この人…
…昨夜、夜遅くまで何かをしていた。
きっと、今朝も…

なぜ……

男性:「…もう、だ、大丈夫ですよ。
私がフォローしておきますから」

(男性、その場を離れる)
(トクコ:
くっ……)

きっと…
この女性は、何か事情を抱えてる。
なのに…
わ、私に出来ることは…
…)
トクコ:「…あ…あの…」

女性:「…はい?」
トクコ:「…大丈夫ですか?」
女性:「…え?」
トクコ:「…なんというか…
お疲れのようで」
女性:「…いえ、大丈夫です」

トクコ:「…もし、よろしければ…
何かお手伝いできることがあれば」
女性:「…あの、どちら様でしょうか?」
トクコ:「あ、すみません。
昨日入社したトクコです」
女性:「…そうでしたか。
ありがとうございます。
私はサトミと言います。
…でも、本当に大丈夫ですから」
(女性、立ち去ろうとする)
トクコ:「…あの」
サトミ:「…まだ、何か?」
トクコ:「…そんなに一人で抱え込まなくても、
いいんじゃないでしょうか」
サトミ:「…え…?」

トクコ:「…あ、いや、
私も…よく一人で
抱え込んでしまうタイプなので…
え…と…
だから、な、なんとなく、
分かるような気がして」

サトミ:「……」

サトミ:「…実は…昨日、
残業中にシステムの不具合があって…
復旧後に、大量の資料を差し替えてたんです。」
サトミ:「……夜中だったので、
上司を煩わせるのも悪いと思い、
一人で対応してたんですが…
…もっと早く、上司に相談すべきでした…」
トクコ:「…上司はもう、
オフィスに居なかったのですか?」
サトミ:「…はい。
その日はお子さんの誕生日だったとか…
それで連絡するのも憚られて…
でも、今日の会議に間に合わせたくて…」
トクコ:「…そうだったんですね…
それは、大変でしたね…」

サトミ:「…でも、結局うまくいかなくて
…さっきも…うまく話せず…」
トクコ:「…そうだったんですね」
サトミ:「…あの、トクコさんは、
なぜ、声をかけてくださったのですか??」
トクコ:「…え?
あ、いや、ただ…
…同じような経験があるので」

サトミ:「…そう…なのですね。
あの、ありがとうございます。
少し…楽になりました」

トクコ:「…え?
ああ、い、いや…」
サトミ:「では……」

(トクコ:…これで良かったのかな……)


