(夜のオフィスにて)

(トクコ:ふう…
初日なのに、少し遅くなってしまったな…
そろそろ、帰ろうかな…)
トクコ:「うん…?」
3人の男性たち:「…!………!!」
(奥のデスクで、社員3人が言い争っている気配。
声は聞こえない。)

トクコ:「あら…
あっちも…か…?」
(沈黙が続いている)

トクコ:「……こっちは空気、かなり張ってるな。
何かが、逼迫してる……」


(トクコ:握られた拳、
こわばった表情、
空になった書類トレー、
ペンを持つ手の細かな震え…)

トクコ:「……はっ!!」

子供の声:「それ…
ホントに、
見えてる?」
トクコ:「!!!
ぐっ…
ま……まるで呪い…」

(トクコ:…見えては、いる。
無意識に“拾ってる”。
情報が押し寄せてくる。
…でも、それだけ。
何かが、足りていない。
そんな気がする…
前の職場でもあった…

誰かが飲み込んでる…
…
過労寸前の人
左遷を言い渡された人
ミスを隠している人
家庭の問題があった人
…でも私、あのとき─
─何もできんかった。
空回りばかり。
─観察は、役に立たなかった。

悶々としてても仕方ないな
帰るか……)
(夜、トクコの部屋)

トクコ:「ただいまぁ……」
はーちゃん:「おかえり〜。
遅かったね。どうだった?初日」

トクコ:「……まぁ…
…いろいろと……ね」
はーちゃん:「……いろいろ、
“見えちゃった”んだ?」
トクコ:「ははは…
うん…疲れた……
…
あ、でも、そういえば!
朝、カフェで…
…子供が大人を叱ってたんよ。
あれはすごかったなぁ」

はーちゃん:「……子供が?」
トクコ:「年上の男性を相手に、
堂々と、冷静に──なんか…
…論理的に諭してた」
はーちゃん:「…子供が…
論理的にねぇ…」
トクコ:「その子…
ラクって名前らしいんやけど…
…人事の話によると、
私をリーダー職に就けて、
その子を私の教育係にするとか……」
はーちゃん:「えっ!?
トクコをリーダーに?
しかもその子供が!? 教育係!?
…だ、大丈夫?その会社…」
トクコ:「うん…
なんか、特別な事情があるとか…
詳しいことは聞いてないけど。
あの子、もしかしたら…
私と同じチカラを持っているんじゃ…」

はーちゃん:「トクコの…チカラを?」
トクコ:「うん。
私があの子を観察しようとしたら、
逆に観察されたというか…
研ぎ澄まされた視線を感じた」
はーちゃん:「いったい、何者なんだろね…」

トクコ:「まぁ、
子供なのに大人を諭すくらいだからね…
普通じゃないね…」
はーちゃん:「…で、リーダーやるの?」
トクコ:「………
…正直、不安やねん。
前の会社で……色々あったやん?」
はーちゃん:「…そうだね」
トクコ:「人の仕草、視線、
空気の変化、
全部“見えて”しまう。
…でも、それを上手く使えていない。
自分が歯がゆくて…」

はーちゃん:「…そうだね」
トクコ:「……“見る”って、しんどい。
全部、勝手に入ってくる。
笑ってても、目が笑ってない人とか。
言葉と態度がズレてる人とか…
…見たくなくても、目が拾ってしまう」
はーちゃん:「それは…
リーダーをやるうえでの
武器にもなる?」

トクコ:「……そう、なのかな。
うーーん…
それは分からないけど、
あの子は…気になるな。
私より、このチカラに詳しいのかも…」

はーちゃん:「紅茶、いれてこよっか?」
トクコ:「あんた、植物やん」
はーちゃん:「……バレたか」

(その頃、オフィスにて)

ラク:「…やっぱり……
タキサイキアの砂時計が、
少し
動き始めた」

バウ:「お前が子供になって以来、初めてだな。
ここまで変化が見られたのは。」
ラク:「……うん。
やっぱり彼女かな。」

バウ:「…どうする?」
ラク:「今朝、人事のサトシさんから連絡があった。
僕が『教育係』として就くのは、彼女らしい。」
バウ:「…そうか。じゃあ好都合だな。」
ラク:「…そうだね。
彼女に近づくことで、何かキッカケが掴めるかもしれない。」
バウ:「…ラク…
…もう子供のままでいる時間は、長すぎたぜ。」
ラク:「……分かってる……」

