(その日の夜、トクコの自宅)
(トクコ:…なんか…
色々あったな、今日は。
…
あの子供と
妙な会話ばかり…
今見えているものだけが正しい…
…
見えたものを疑いすぎた…

あなたは“見えたものを信じる”…
でも、
僕は“見えたものを疑いすぎた”。
…
見えたものを信じる…
見えたものを疑う…)

(トクコ:そんなこと…
正直、考えたことも無かったな。
…
つまりそれは、
何の疑いもなく、
信じてたということになるのかな。
しかし、あの子…
まるで、私より長く生きてきたみたいな…
いやいや
どう見ても子供やろ
…
私は子供に踊らされてるのか…!?

な…なんかモヤモヤするなぁ…
どうすればいいんやろ…
こ…こうなったら…)
…
トクコ:「はーちゃん!
…
なんか…
…なんか道具出して!」

はーちゃん:「な…なんか道具って…
出ちゃったらどうするんだよ」
トクコ:「え!?出るん??
(ワクワク)」
はーちゃん:「もーしょうがないなぁー
…
って…出るわけないでしょ💦
しばらくは『21世紀の植物』で通すよ。
…じゃないと、キャラ崩壊だよ」
トクコ:「キャラ維持『おつ』やなぁ。
エモいなぁ。」
はーちゃん:「……エモいのか、これ…
…
あ、
ドラエモイってか?」
トクコ:「なんか言った?」

はーちゃん:「……うっ!
き…聞き返さないで…」
トクコ:「キャラ維持どころか、
別方面に行こうとしてるけど、大丈夫?」
はーちゃん:「…き…気を付けます…
で…ほ、本題は…??」
トクコ:「あのさ…
例の『ラク』って子供に…
あなたは“見えたものを信じる”。
でも、
僕は“見えたものを疑いすぎた”。
…って言われてんけど…
これって、どういう意味やと思う?」
はーちゃん:「え?
うーん、なんだか難しい話だなぁ…」

トクコ:「ねぇ…」
はーちゃん:「見えるって、なんだろうね」
トクコ:「そりゃ…
目に見えてるものでしょ」

はーちゃん:「…でもねぇトクコ、
人間の脳は、毎秒1100万個もの情報を受ける。(※1)
そのすべてに対して、
注意を向けられてると思う?」
トクコ:「1100万個…!
そ、そんなに?」
はーちゃん:「もちろんそれは、
視覚によるものだけじゃない。
でも…あ…そうだ。
他の植物に聞いたんだけど、
面白い実験の話。
ちょっと調べてみて。
その動画で、
白い服を着ている人たちが、
何回ボールをパスしているか、
数えてみてくれる?」
トクコ:「え…と…
これかな…
1分ちょっとの動画やね。
…はいはい、
白い服の人たちの、パスの回数ね…」
はーちゃん:「どうだった?」
トクコ:「な、な、
なんだこれは…」

はーちゃん:「もし…
トクコが自分の観察力を過信して、
『私は見えてる』って思ったら…
同じように見過ごしてることも、あるかもね」
トクコ:「ぐっ…
こ、これが…
ラクって子が言いたかったこと…?」
はーちゃん:「さぁ…
でも、こういうこともあるんだなぁって」
トクコ:「な、なるほど…」
はーちゃん:「何か思い当たること、ある?」
トクコ:「そうやね…
前の職場で仕事に追われて、
自分に余裕が無かったとき…
ある後輩の子の様子を見ていて、
“この子は仕事に慣れていない。
緊張している。
孤立している。疲れている“…って、思ったことがある。
…でも、
誤解だった。」

はーちゃん:「…そう思うきっかけは、あったの?」
トクコ:「あったよ。
その人、その日の朝は30分遅刻して出社して、
コピー機の前でうつむいて立ち止まってて、
電話対応時、左手でペンをずっと回してて、
…あと、昼休みも一人で弁当を食べて、
よく肩を回す動作もしてて、
帰りも、ずっとエレベーターで下を向いてて…」
はーちゃん:「なるほどね…」

トクコ:「でも、
後になって分かったのが…
当日は電車が遅延してて、
コピー機は故障中で張り紙貼ってて、
その子は暇なときペンを良く回してて、
読書が趣味だから昼は一人が良くて、
肩回しはストレッチで、
うつむいてたのは、靴の汚れが気になっていたから
…
…なんだって…」
はーちゃん:「…本人に確認したんだね💦」
トクコ:「まぁ、…ね。
当時は…私も忙しかった。
きっと瞬間的な観察を、
全体像と勘違いしてた…
…
今なら、そう思える…
…かなぁ…」

はーちゃん:「でもそれは確かに、
見えたものを信じる…
見えたものを疑う
…っていう話に一致するね」
トクコ:「そう…かもね。

私はただ…
もし困っているのなら、
…
助けたかっただけ…
…
…なんだけ…ど…
…
なんか…
申し訳なかった…
かなぁ…」

はーちゃん:「…ちょっと横になったら?」
トクコ:「…らいしょー……ふ…」

はーちゃん:「…いや、
もう、寝たら?」
トクコ:「…じゃあ…
…
ちょっと
‥だけ…」

(はーちゃん:…
さすがに疲れたか💦
無理もない。
まだ転職2日目…
慣れないことばっかりで…



(はーちゃん:トクコ…

(はーちゃん:トクコ…
…
私は、見てるよ…
君が見る世界は、
ときに冷たく、
ときに残酷で…
でも…
だから――…
明日、ちょっとでもいい。
きみの “眼” に、
あたたかいものが映りますように…

