(前回ラクに「ケンジをよく見てみて」と言われたトクコ)
トクコ:「…ケンジ君をもっと見てみてって、
そんなこと言われてもなぁ…
あんまりジロジロ見るわけにもいかないし…」
バウ:「…あぁ、まったくだ…」
トクコ:「…んで、
なんでアンタはついてきてるん?」

バウ:「そんなの、決まってるじゃねぇか。
…
ワシはな、退屈なんだよ」
トクコ:「…あのな、
私、一応これでも
仕事でやってるんやけど」
バウ:「まぁ仕事なんて、
所詮退屈しのぎじゃねぇか」
トクコ:「なんでやねん、
お金のためやろ?」
バウ:「金か…
ふっ、若いな…」
トクコ:「え?…なんで?」

バウ:「金なんてモノは二の次だ。
お前たちは結局、
退屈から逃れたいだけなんだよ」
トクコ:「…退屈?」
バウ:「そうだ。
…お前たちは、
生きがいという観念を
消費するため、
労働している」(※1)
トクコ:「…え??」
バウ:「まぁ、この辺りは、
また今度話してやるよ。
…
あ、オイ、来たぞ。
ちょっと離れて見てようぜ…」

ケンジ:「あ、ツトムさん、
コーヒー取りに来たんですよね?
入れときましたよ!」
ツトム:「あ、おお、
悪いな…」
トクコ&バウ:「……」

バウ:「…しばらくケンジの
観察を続けてみるか…」
(さらにケンジの観察を続ける二人)
ケンジ:「あ、〇〇〇さん…」
ケンジ:「△△△さん…」
ケンジ:「あ、xxxさん…」

バウ:「…おいおい…
どんだけ気遣ってんだよ。
てか、アイツ、
暇なんじゃねぇの?」
トクコ:「うーん……
いや、そんなことは…
合間にちゃんと
自分の仕事もこなしてるんやけど…」
バウ:「…しかしちょっと
世話焼き過ぎじゃねぇのか?
…お前さんの観察力で、
なんか見えたモンはねぇのか?」
トクコ:「うーーーん……」

(トクコ:ケンジくん…
なんで、あんなに動けるんやろ。
笑顔のまま。
何よりも、相手の反応、
気にしてないのかな…
いや、でも…)
ケンジ:「あ、マナミさん、
探してた資料、これですよね?」
マナミ:「あ、うん。」

(マナミが大量の資料を抱えて、
デスクに戻ってくる。
ケンジがすかさず立ち上がる。)
ケンジ:「あ、持ちます!」
マナミ:「いい。自分でできる」
ケンジ:「でも重そうだし!」
マナミ:「いいってば」
一瞬の沈黙。
ケンジ:「…分かりました!」


(トクコ:やっぱり、
笑う瞬間、
瞬きが増える。
そして
眉を下げて目を細める
動作もある。

笑顔から普通の顔に戻る際、
不自然なラグもある。
でも…
実はこういうとき、
表情だけでは判断しにくい…
表情はウソをつく。
顔に現れた手掛かりは
すぐ消える。

だからこそ気になるのは、
彼の足…
マナミさんとの会話の後で
少しの間、小刻みに揺れた。

あまり知られていないが、
足が表す感情は
大きな手掛かりだ。
だから人を観察するとき、
足を良く見る。

数百万年にわたり、
足は人類が動くための
主な手段になってきた。
動きまわるにも、
逃げるにも、
生き残るにも…
足を使うのが
私たちにとって第一の手段だから。
足の仕組みは
高次元の認知処理が要らない、
ただの反応だ。
だからこそ足は、
本人の感情を表しやすい。
(※2)
トクコ:「…って、
あかんあかん。
ラク君に言われたこと、
うっかり忘れるとこやった」

バウ:「ラクに言われたこと?」
トクコ:「うん。
自分の見えたものに対して
疑問を投げかけろって。」
バウ:「ほう…」
トクコ:「瞬間的な観察を、
全体像と勘違いしたらアカンな。」
バウ:「ふっ。
ちょっと成長したじゃねぇか。
…で、じゃあ次にどうするよ?」
トクコ:「……うーん…」
バウ:「おいおい。
お前がサトミにしたこと、忘れたのか?」

トクコ:「…こ…声をかけて、
話しただけやろ?」
バウ:「そうだな。
で、サトミは何て言った?」
トクコ:「…少し、楽になったって
…あ、
そうか…」
バウ:「そうだ。
見えただけで終わるのは…
ただの監視だろが。
観察って言えば聞こえはいいけどな。
…だが、お前さんは今は、
リーダーなんだろ?」
トクコ:「…そうか。
リーダーか…」

バウ:「見えただけで終わらせるな。
見えたあとで、
誰かに向かっていけるなら、
それはリーダーの仕事になる。」
トクコが歩き出す。
(トクコ:…うん。
放っておけない。)

トクコ:「せやな!」
※1:暇と退屈の倫理学(國分功一郎・著)より
※2:FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学(ジョー・ナヴァロ/マーヴィン・カーリンズ著)より
