~~次の日、出社してラクとバウと話すトクコ~~
(今回のストーリー内容は特に以下の本に基づいたお話です!)
トクコ:「おはようございまぁす…」
ラク:「おはようございます。早いですね」
トクコ:「あれ?今日、バウさんは?」
ラク:「…まだ家で寝てますよ…」
トクコ:「あ、一緒に暮らしてるんですか?」
ラク:「…えぇ、まぁ」
トクコ:(なんかこの人の私生活って、謎やなぁ…
そもそもなぜ子供の姿なのか、
もっと聞いてみたい気もするけど…)
トクコ:「え…と、
不躾な質問ですが…
ラクさんって今おいくつなんですか?」
ラク:「…40歳ですね」
トクコ:「えぇ!??
そ、それで子供の姿なんて…
ま、まさか!
黒っぽい組織に追われてるとか…?」
ラク:「…いや、
…そんなことは無いですね」
トクコ:「…あ、そ、そうですか…
私のワクワクを返してください…」
ラク:「…え?」
トクコ:「あ…いや、なんでもないです…」
ラク:「…まぁ私自身の話は…
今度バウさんが一緒にいるときにでも。
今日は昨日お話しした『観察を止める』という話について…
もう少し詳しくお話ししますね」
トクコ:「あ、はい、ぜひ…」
ラク:「まず、昨日の観察にチカラ、
お見事でした。
イスパイアルと言いましたか…」
トクコ:「あ、いえいえ…」
ラク:「何が見事だったかというと…
あなたは淡々と事実だけを捉えた。
たとえばマナミさんの表情について、
『固い』『真面目そう』『イライラしてそう』…
そんな主観的な表現を一切使わなかったことです。
それは意識されて、そうされているのですか?」
トクコ:「え…と、そうですね。
でも、どこまで自分でコントロールできているのか…」
ラク:「そうですか…
少し話が逸れますが…
たとえば、誰かと一緒にアート展覧会に行ったとします。
しかし、同じ展覧会に出ても、
人によって観えるものは違います。
なぜだか分かりますか?」
トクコ:「…ええ…と…
同じものを見ても、
捉え方がそれぞれ違う‥‥とか…?
特にアートは…」
ラク:「…そうですね。
たとえば、『さびついた鎌』の絵があるとしましょう。
ある人にとっては、鎌というのは『豊穣のしるし』です。
しかし、別の人にとっては『破壊の象徴』に映ります。」
トクコ:「……なるほど」
ラク:「どちらが正しいのか…
その答えは、『どちらも正しくない』です。
客観的かつ正確な答えは、
『錆びた鎌は、錆びた鎌である』ということです。
それ以外のどんな形容も…
事実を歪めるものでしかないということが言えます。」
トクコ:「……良い例えですね。確かにそうです。」
ラク:「今回、あなたがツトムさんとマナミさんを
『客観的に』見れたのは…
もしかしたら彼らを全く知らなかったから
…と言えるかもしれません。」
トクコ:「え…?」
ラク:「彼らのことを知ってしまったら、
その後、もう一度彼らのことを
同じように観察できるでしょうか?」
トクコ:「わ…分かりません…」
ラク:「その理由は…?」
トクコ:「彼らのことを、
主観的に見てしまうかもしれないからです…」
ラク:「そうですね。
あ、でも勘違いしないでください。
責めてるわけではありません。
私が心配してたのは、もしかすると、
あなたの前職やこれまでの人生において…
その観察力に無意識に『頼りすぎ』たことが、
あなた自身に不幸をもたらしていたのではないかと…」
トクコ:「え…?」
ラク:「つまり…
自分では『きちんと観察している』つもりでも…
『個人的な解釈』をしてしまっていた可能性があります。
特に社会人になった後は、
様々な人間関係で、感情が乱されがちです。
そうすると…
その先の『分析』や『伝達』についても、
影響があったのかもしれません」
トクコ:「………!!」
ラク:「ただ、誤解して欲しくないのは…
主観的な意見は、必ずしも排除しなくても良いということです。
それはそれで、ひとつの物の見方なのですから…」
トクコ:「…ラ…ラクさん、
あなたもまさか…
知覚の技法を?」
ラク:「……以前、確かに少しだけ
『知覚の技法』を学んでいました。
…あなたのイスパイアルを見て思い出しましたよ。
ただ、私の場合は、トクコさんほど観察力が鋭くない…
いや、むしろ『観察』から逃げてきた人間です。
どちらかと言えば…
推論を行いがちで、それがある意味欠点です。」
トクコ:「そうか!
それが以前、ラクさんがツトムさんと
カフェで話していた時に感じた違和感の正体…!
ラクさんは…
『見えている事実から発想する』んじゃないんですね…」
ラク:「……見てたんですね…💦」
トクコ:「あ、しまった!
ハハハ…すみません…
たまたまです…」
ラク:「でも、いい視点ですね。そのとおりです。
私は『見えていないもの』から発想することが多いかもしれません。
私はツトムさんのことを知っています。
そこで、彼の取りそうな行動から推測したわけですね…
それもまぁ結局、主観的なのですが。」
トクコ:「なるほど…でもまぁ、それは
ラクさんが普段からツトムさんのことを
よく観察されているから…とも言えますね。」
ラク:「確かに…
そうですね。
すみません。また話が逸れました。
トクコさんの話に戻しますね。
観察力を今後使ううえで、気をつけて欲しい点が2つあります」
トクコ:「は…はい…」
ラク:「ひとつは…
『自分がモノを見るときも、
何かしらバイアスのフィルターがかかっていないか、
十分に気を付けること』。
そしてもうひとつは、
『あらゆるものが変わり続けているという認識を持つこと』です。」
トクコ:「え…?
な…なんか、難しいですね…」
バウ:「そのとおりだ。
特に人間関係という複雑極まりないものについては、
絵画を見るのとは違う。
常に揺れ動いて、うるさくて、混沌としている。」
トクコ:「あ、バウさん、おはようございます。」
バウ:「うむ…」
ラク:「なにが『うむ』ですか。
いったい何時だと思ってるんですか」
バウ:「それはラクが起こしてくれなかったから…」
ラク:「起こしましたよ!
耳引っ張って、鼻も引っ張って、
口も引っ張りましたよね」
バウ:「どうだ。見たか、トクコ。
このように人間関係は複雑極まりない…」
ラク:「ただ寝坊しただけでしょ」
トクコ:「あ、あの…
ケンカしないで…
えと、私にリーダー職、
ぜひ務めさせてください。」
ラク&バウ:「……!」
トクコ:「もう、前の職場のような想いを、
自分も繰り返したくないし、誰にも繰り返させない。
少なくとも、私の目の前では…」
ラク:「もちろん。トクコさんなら出来ます。
観察のチカラも含めて、一緒に頑張りましょうね。
…ではこれから、チームの皆さんに挨拶しましょうか。」