トクコ:「ケンジ君、ちょっといい?」

ケンジ:「あ、トクコさん!
はい、もちろんです!」
トクコ:「あの、
最近さ、
なんか…
しんどそうに見えて」
ケンジ:「え?
全然!楽しいですよ!
まだ新人なんで、
やれることをやりたいなって」
トクコ:「…
そ、そっか」

トクコ:「…あ、あの、
ケンジくん」
ケンジ:「はい?」
トクコ:「…ごめん、
違ったら全然いいんやけどさ」
(ケンジ、わずかに首をかしげる)

トクコ:「ケンジくんって、
“大丈夫な顔するの、上手い人”やったりする?」
(ケンジの瞬きが、止まる)
(トクコ:……あ)
ケンジ:「…え?」
いやいや、
そんなことないですよ~」
(トクコ:…
…軽い
でも
足の揺れは、止まっていない)

トクコ:「…そっか」
(トクコ:ここで引くか…?
…
いや…)
トクコ:「なんかさ」
ケンジ:「はい?」
トクコ:「ちょっと
無理してるように見えるとき、
あってな」

(沈黙)
ケンジ:「…
…あの」
トクコ:「うん?」
ケンジ:「僕、そんな風に
見えてました?」

(トクコ:…あれ?)
トクコ:「え、いや…
その…」
ケンジ:「いや、すみません」

(トクコ:また笑う。でもさっきより固い)
ケンジ:「ちゃんとやれてるつもりだったんで」
(トクコ:…
…違う…
これ、「当たってる」感じじゃない。
…私、ズレてる?)

ケンジ:「…気、遣わせちゃいました?」
トクコ:「いや、ちゃうくて――」
ケンジ:「大丈夫ですから!」

ケンジ:「ほんとに、
全然平気なんで」
(その瞬間、
足の揺れが、ピタッと止まる)
(トクコ:…足の揺れが止まった)
ケンジ:「じゃあ、すみません。
この後ちょっと打ち合わせあるんで!」
トクコ:「あ…
…うん」

(ケンジ、去っていく)
(トクコ:…
あかん…
…
今の…
助けたんじゃなくて
…閉じさせた)

(午後、オフィスにて
ケンジが、マナミのデスクの横に
ファイルを置いている)
ケンジ:「マナミさん、
さっきの月次の集計、
先にやっておきました!」
マナミ:「…え」

ケンジ:「締め切り、明後日ですよね?
早めに終わらせた方がいいかと思って」

マナミ:「…ケンジさん」
ケンジ:「はい!」
マナミ:「それ…
私がやろうとしていたものです」

ケンジ:「あ、でも、
お忙しそうだったので…」
マナミ:「忙しいかどうかは、
私が判断します。
…確認せずに動かれると、
私のやり方が崩れる。
次から、一言声をかけてください」
ケンジ:「…す、すみません」
マナミ:「…責めているわけじゃないです。
ただ、お願いします…」

(マナミ、ケンジ、
自分のデスクに戻る)
(ケンジ:…
あれ
なんで、こんなに…
…僕、何をやってるんだろう)

(トクコ:…ああ。
ケンジ君の背中が、
少しだけ縮んだ。
…
今朝、私が声をかけたから、
ケンジ君の中で
何かが緩んだのかもしれない。

だから今、
マナミさんの言葉が
いつもより深く刺さった。
…
これは、私のせいなのか。
それとも…
…
分からない……)

